米国株オプションを考え直すシリーズNo.3です。
この記事では、オプション特有のマネーマネジメントの難しさを明らかにし、
それを乗り越えた管理方法がないかを模索します。
ずっと、オプション取引で気持ち悪さを感じていた部分があります。
それは、マネーマネジメントの方法です。
FXや株のスイングで取引を始めた私は、
「一トレードあたり運用資金の〇%を最大リスクとする」ということを
しばらくの間、鉄の掟としてきました。
最大リスクを決め、勝率とリスクリワードを設定すれば、
破産確率がない状態での売買が可能という理屈です。
しかし、これは個別株の長期投資ではすこぶる相性が悪いことがあります。
こちらのマネーマネジメントとしては、
「銘柄を数銘柄に分散させれば、1銘柄が紙くずとなっても、
全体としての損失は数分の一になる」ということが王道とされています。
ただ、これは株式市場が暴落し、銘柄がそろって安くなった場合について、
答えを持ってないマネジメント法ではあります。
ここに改良を加えたのが、現金比率です。
過熱相場や暴落前に株を売り払い、
キャッシュポジションをあらかじめ大きくしておけば、
運用資金の大きなドローダウンを防ぐことができます。
加えて、暴落により株が安くなったところで、買える現金余力があるため、
暴落によるドローダウンを一気に回復できるチャンスに恵まれます。
このマネーマネジメントは王道ですが、
よくよく考えると注目すべきは、
大数の法則による破産確率に依拠していない点です。
一見危うさを感じますが、
しっかりと株市場のサイクルに則ったリスク管理をしている点です。
このマネーマネジメントをしていたとしても、
個々の投資家ごとに結果が異なります。
ヘッジによる両建てやプット買いを機動的に行い、助かる投資家。
現物を底で投げうってしまった投資家。
暴落した優良銘柄はもどると信じてホールドする投資家・・・。
では、オプションはどうでしょうか。
満期の短い銘柄によるスイングポジションについては、
FXと同様、
「一トレードあたり運用資金の〇%を最大リスクとする」
とするのがよさそうです。
しかし、満期の長いLEAPSや数か月の長いトレードとなった場合、
デルタリスクによる株の疑似的な保有の意味合いが強くなるため、
相性が悪くなってきます。
長い時間かけてトレードするのに、
運用資金の1~3%を最大リスクとするのはちょっと控えめではないか…、と。
そこで株のマネーマネジメントを使おうと考えますが、
オプションだけで複数ポートフォリオにするというのは考えにくく、
「分散して、リスクを数分の一」にするということが使えません。
一つの改善案としては、
これも王道である「コア・サテライト戦略」の発想を使うことです。
インデックス運用、あるいは他の優良銘柄の個別株運用をコアとし、
オプショントレードをサテライトの運用とすることです。
そのため、オプショントレードはあくまでサテライトに収まる範囲での、
最大損失の運用とします。
そうすれば、資金管理上は問題なくなります。
ただ、私もそうですが、そうではないケースも多いと思います。
マネーマネジメントについては、先日ポジションをバランスさせる観点から、
記事を書きました。
要点だけ述べると、FXや株、オプションのポジションのリスク管理をするために、
・「運用資金の何パーセントを最大損失にしているか」
・「証拠金に対するレバレッジ」と「運用資金に対する実効レバレッジ」
・「証拠金・銘柄資金に対する想定利益率・想定損失率」と「運用資金に対する想定利益率・想定損失率」
・ATRインジケータから算出される日次損益変動
の以上をポジション管理表へ併記して、
リスク管理を行うと複数アセットをバランスよく管理できるということです。
今回の記事では、オプションに特化して、これをもう少し深堀りしたいと思います。
このシリーズの前の記事に、
最大損失が「最悪なケースに対するリスク許容度」であるのに対して、
一時的な損失は「ポジションの保有継続に影響するリスク許容度」
に関係するということを指摘しました。
最大損失に対して「運用資金の何パーセントを許容損失にしているか」を
当てはめるのではなく、
「ポジションの保有継続に影響するリスク許容度」に対して、
「運用資金の何パーセントを許容損失にしているか」を当てはめてしまうと、
個人のマネーマネジメント法もリスク許容度も範囲を狭めてしまうのではないか
と思っています。
この点が、今まで私が自身のオプションのマネーマネジメントに関して
気持ち悪さを感じていた部分です。
FXなどの短期売買では、
「1トレードあたりの最大損失」と「ポジション保有のリスク許容度」は一致します。
そうでなければ破産してしまうからです。
しかし、
「最悪なケースに対する最大損失」とそのリスク許容度は別途存在します。
それはドローダウンと呼ばれ、破産確率が0であっても、
おおよそ運用資金の10~20%が、
一時的にピーク時より減る状態を許容しなければいけません。
ドローダウンを減らすためには、
リスクリワード比が小さくなるが勝率が高くなる戦略を選ぶか、
ポジションのロットをより小さくする必要があります。
「最悪なケースに対するリスク許容度」とそのリスク許容度について、
明確に自覚、言語化できている人は多くありません。
SNSを見れば、結果的に連敗となり、自暴自棄になる人を見かけます。
その中には、自分の戦略とロットがどのようなドローダウンを引き起こすか、
自覚していない人もいます。
ドローダウンに対するマイルールを決め、
トレードの根本的な改善と冷静さを取り戻す必要があるのは、
このリスク許容度を超えず、非合理な売買に陥らないためです。
話を戻しますが、FX・株・オプションを並行して取引しているとき、
そのマネーマネジメントに一本串を通す基準が、
「最悪なケースに対するリスク許容度」となります。
FXは先ほどの例の通り、ドローダウンそのものです。
(テールリスクについては今回は割愛します)
株は、各個別の株が運用資金に対してそれぞれ10%の損を出すことを許容しますが、
一気にポートフォリオ全体で損失が出た時、
例えば運用資産の半分になることは覚悟しておくということになります。
それが許容できないときは、底売りになるのを覚悟で、
ポジションを軽くすることになるでしょう。
大部分の資金が守られたことにより、
市場に生き残ることができ、長い目でより資産を増やすことができるでしょう。
オプションの場合、満期が長いほど、株投資に近い側面が出てきます。
例えば、SPYについて運用資金10%分の満期1か月のコールと
運用資金10%分のSPY満期2年のコールでは扱いが直観的に異なるというのは、
賛成していただけるでしょうか。
(もちろん、権利行使価格によっても異なります)
オプションで運用資金が半分になることは許容できません。
ただ、最大損失10%で満期2年なら許容できる人も出てくると思います。
このとき、「運用資金の何パーセントの損失が出たらポジション保有をやめる」
という損切り基準を設定したらどうなるでしょうか。
確かに破産確率はなくなるかもしれません。
しかし、設定の仕方によっては、市場のノイズにやられてしまうかもしれません。
また、オプションのメリットである損失限定と、
レバレッジによる大きなリターンを得られないかもしれません。
この意味で、
最大損失に対して「運用資金の何パーセントを許容損失にしているか」を
当てはめるのではなく、
「ポジションの保有継続に影響するリスク許容度」に対して、
「運用資金の何パーセントを許容損失にしているか」を当てはめてしまうと、
個人のマネーマネジメント法もリスク許容度も範囲を狭めてしまうのではないか
と指摘しました。
マネーマネジメントは破産しないために行うのが第一目的です。
この目的を反故にするマネーマネジメントであるなら捨てるべきでしょう。
先ほどの「運用資金の10%を最大損失とした、長期満期のSPYコール買い」は、
破産につながるよくないマネーマネジメントなのでしょうか。
そうではないと思います。
もし10%を失っても残りの現金90%が残ります。
残りの90%からまた資金の10%をSPYの長期コール買いに充てることを
繰り返し行った場合、そのタイミングが適切であるなら
長期投資という意味では、
利益になる可能性(勝率)が高く、得られる利益(リスクリワード)も大きい
と考えられます。
つまり、破産は非常にしづらいと考えられます。
念のため、バルサラの破産確率で定率資金運用、
勝率50%,RR3:1,許容損失10%の想定を計算しましたが、
破産確率は0%です。
以上で、米国株オプションにおけるマネージメントについて考えてみました。
まとめると…。
短期売買では「一トレードあたり運用資金の〇%を最大リスクとする」
でも問題ありませんでした。
ただ、満期が延びていき、投資の側面が大きくなると、
このマネーマネジメントでは違和感や窮屈さを感じることが多くなります。
その場合は、「どの程度の損失が出たら保有をやめるか」ではなく、
「どうであれ保有を続け、一連の売買の最大損失は運用資金の〇%とする」という
発想のマネーマネジメントの方が、レバレッジがかかり、
損失限定のオプションでは、そのメリットを扱いやすくなってくるというのが、
本記事での主張です。
前提として、破産しないマネーマネジメントは、
優位性があるトレード・投資行動とセットになって初めて破産をまぬかれます。
そのような「適切な」オプションの投資・売買行為は何なのか、
次回の記事で書いてみたいと思います。