勝率が高いが、利益が小さく、平均利益より平均損失の方が大きい売買法。
(スキャルピング、オプション売りなど)
勝率は低いが、利益が大きく、平均利益が平均損失より大きい売買法。
(トレンドフォロー、オプションの買いなど)
裁量の投資家・トレーダーは、
複数の手法あるいは、自在流に根拠を組み合わせて、
その都度の判断で売買します。
違和感を感じたことはないでしょうか。
デイトレとスキャルピング、あるいは違う手法を組み合わせた取引をしていた場合、
その損益の出方があまりに違うこと。
オプションの裸買いと裸売りも、
あまりに損益とポジションの扱い方が違うのにもかかわらず、
どちらかだけでは相場では生き残りにくいこと。
複数の売買法を組み合わせると感じる違和感の極端な例は以下の通りです。
「勝率が低くても大勝ちするなら、勝率高くコツコツやるのはやめにして、
戦略を一つに絞った方がよいのではないか。」
この違和感を解決するヒントは、システムトレードにあります。
システムトレードでは、
複数の売買戦略を同時並行的に運用するのは損益曲線を改善する意味で、
必須に近い状態で行われています。
redditでちょうどいいポストがされていましたので、リンクを貼ります。
リンク先では、上から4つの戦略の資産曲線(オレンジ)。
最後にそれらの戦略を組み合わせた資産曲線を掲載しています。
ここからわかるのは、
4つの戦略がいかにいびつな資産曲線であったり、
一つだけではパフォーマンスを出せなくとも、
組み合わせると、運用に耐える資産曲線に近づけられるということです。
戦略の「分散化」による効果です。
システムトレードでは、戦略開発・検証の段階でこれを把握し、
実運用では、資金管理の範囲でドローダウンを受け入れ、
右肩上がりの曲線になるよう運用していくということになります。
裁量トレードでも、複数手法・戦略を運用すれば、
この効果を享受することができます。
つまり、資産曲線をなだらかにしたり、
資産の増加を加速させたりすることができます。
ただし、いくつかの注意点があります。
1.
この効果は、ある程度分類や検証可能な形に手法・戦略を落とし込む必要があります。
自在流にその都度判断を下すような天才肌の取引は、
分散化をしているのかどうかよくわからないということになります。
2.
似ている手法・戦略はあまり分散化に寄与しません。
しかし、取引時間軸を変えると分散化することは、
システムトレードではよく見られます。
3.
裁量トレードでは、メンタルアカウンティングに影響されます。
つまり、発生したお金を由来や使用目的で区別してしまう心理効果です。
例えば、「オプション売りで発生した利益を、オプション買いのコストとして使おう。
けれど、運用資金から直接オプションの買いのコストは払いたくない」
といったものです。
分散化によって、メンタルアカウンティングが、
よい方向・悪い方向どちらに影響するかは、
実際トレードしてみないとわからないでしょう。
4.
システムトレードでも共通することですが、
各戦略にどれだけのリスクを取らせ、資金を割り振るかは
分散化後のパフォーマンスを非常に左右します。
つまり、ポジションサイジングです
複数戦略をテスト運用していたとします。
全部、最小lotで売買したものの、アセットごとの売買代金が異なる場合、
分散化後の資産曲線は最適化されたものではありません。
その結果を見て、「複数戦略はダメだ」と判断するのは早計だということです。
手法・戦略ごとのポジションサイジングをある程度変化させることまでが、
テスト運用となります。
複数手法で取引されている方は多いかと思います。
今の運用中の手法・戦略で、パフォーマンスが冴えない手法・戦略だけ、
ロットを落とすということをしてみます。
すると、ドローダウンが改善され、資産曲線が上向きになる可能性があります。
(期待値のない手法・戦略でも、
他の手法・戦略と逆相関であれば資産曲線のボラティリティを下げる効果があります。
ただ、その手法・戦略を取りやめ、
他の手法・戦略のロットを落とせばいいなどの議論の余地はあります)
もし、手法ごとに取引記録を付けられるのであれば、
ぜひ記録をつけて、分析してみるのがいいでしょう。
ポジションサイジングに唯一の正解はありません。
代表的な資産曲線の方向性は以下の通りです。
「普段はドローダウンを抑え、小さな利益だが、ある時大勝ちする」
「普段から勝率高く、コツコツ右肩上がりの曲線を描く」
これを実現するには、
単純に「資産の1%を1回の売買の最大損失とするという」リスク管理では
難しいことが分かってきます。
例えば、
大勝ちする戦略だが勝率が低く、かつ平均損失は他の戦略に比べて小さいとき、
他の戦略よりもロットを上げてみるというアイデアがあります。
(すると最大損失は1%より大きくなりますが、
破産確率0の範囲内でドローダウンを受け入れられるものであれば
資産曲線の改善が図れます)
戦略の同時運用で、同時にシグナルが出た時、
大きめのポジションを持った方がよいのでしょうか。
破産確率が0の範囲で大きく持つという方針もありますし、
変わらず1%の最大損失を守るという方針もあります。
また、裁量取引ではある取引機会については多めのリスクを取ることが、
結果として良好なパフォーマンスにつながることがあります。
これはシステムトレードと大きく違う点です。
勝負所でしっかり勝つということは、
機械的なポジションサイジングではなしえないことです。
5.
資産曲線を上向かせようと、
裁量売買で過度な種類の戦略運用をすることや、
トレード回数の増加をさせることはあまりよくありません。
ポジションサイジングが複雑化しますし、
オーバートレードによる売買コストの増加を招くからです。
(右肩上がりの資産曲線は、コスト負けしないことが前提です。
また、リスクパラメータが多様なオプションについてはまた別の記事で書きます)
また、人間のメンタルは一定でなく、
ポジションサイジングが揺らいだり、
せっかくよい戦略の組み合わせなのに、ルール通り運用できなかったりと、
困難な点も発生します。
優れた一つの手法があるのであれば、目移りせずそれの使用に専念するというのは、
とれも懸命な運用方針なのです。
以上のように考えると、
よく言われる、メンタル・手法・資金管理に加えて、
ポジションサイジングというのが重要な概念であることが分かります。
どういう資産曲線であってもドローダウンは避けられません。
右肩上がりであっても複利で10%程度のドローダウンは避けられないかと思います。
資産曲線を加速させたい場合、ドローダウンも深くなります。
こう考えるとドローダウンを受け入れることは、
システムトレードだけでなく、裁量売買でも重要なことが分かります。
ドローダウンを受け入れることが、リスクを受け入れることと等価なのです。
ドローダウンで生じる損を経費と受け入れることが当然と考えれば、
Trading as a bussinessの境地に近づけるかもしれません。
「自分はどういう資産曲線を目指しているのか」という視点を忘れずにいることで、
方針通りのリスクをしっかり取ることになるのです。