投資やトレーディングに慣れてくると、
意識から外れがちになるのが取引コストの概念です。
自分が行った取引の取引手数料やスプレッドを累計してみると、
想像以上のコストを支払っていることを再確認します。
この分だけ、勝つことは難しくなっていると言えるのですが、
期待値の面でこのことを考えてみようというのがこの記事です。
取引手数料やスプレッドは、ギャンブルの控除率と比較されます。
長期的に見て、パチンコは20~15%、競馬は30~20%、宝くじは54%、
トータルから差し引かれます。
FXはドル円の場合0.2銭であり、
ドル円のレート155円とすると0.2銭はレートの0.0012%であり、
コストは非常に抑えられているように「見えます」。
これは、FXの控除率が低いので、ギャンブルと違って利益が出る可能性があるという
FX紹介ブログに使われる論理です。
しかし、おかしい点があるのに気付かれたでしょうか?
ギャンブルの控除率は、期待値に対する差し引き量であるのに対して、
FXはレートという売買代金に対して占める割合であるということです。
フェアに比較するのであれば、FXも期待値に対する差し引き量に換算すべきです。
そこで、勝率60%、リスクリワード比1:1、10pips幅利確・損切という、
標準的に優位性のある状況を考えてみます。
1万通貨の場合、リスク量である10pips幅は1000円となります。
控除率に類する割合はリスク量である1000円に対して20円なので、
20/1000=2%であることが分かります。
(本来の控除率は期待値込みで差し引かれる割合です。
これは勝率50%、リスクリワード比1:1、10pips幅利確・損切という、
期待値の無いケースにおいて控除率2%と言うことができます)
期待値は1×0.6-1×0.4=0.2となります。
したがって、その金額的期待値は2pips=200円となります。
スプレッドコストを考えます。
0.2銭は0.2pipsであり、金額的コストは20円となります。
すると、スプレッド込みの期待値は200-20=180円です。
これは期待値に対するスプレッドコストは20/200=10%となり、
非常に大きいものであることが分かるでしょうか。
もし、期待値のない余計な取引によって、
取引コスト20円分損をしたとすると、
期待値的には1回取引するだけで取り戻すことができます。
しかし、一連のパフォーマンスは10%以上落ちるということなのです。
(余計な取引で1回損その後1回利益なので、期待値換算では-20+180=160円、
余計な取引をしていなければ180円で1-160/180≒11.1[%])
この理解をすることにより、
期待値の低い売買シグナルを見極めスルーするということに、
葛藤を伴う必要はなくなります。
FXをはじめとする投資・トレードにおいては、
取引コストの影響は控除率ではなく、
期待値をどれだけ破壊するかということを定量的に計算することで、
その影響の大きさを知り、慎重に行動することができます。
取引コストはスプレッドの他にも売買手数料、スリッページがあります。
これらはスプレッドと同様の計算により、期待値を破壊します。
取引コストの影響を抑えるには、
金額的期待値に対するコストの差し引き割合を小さくします。
つまり、勝率と利確・損切幅の比をそのままに、値幅を大きくするということです。
例えば、勝率60%、リスクリワード比1:1、20pips幅利確・損切、10000万通貨と
pipsを増やした場合、
その金銭的期待値は、
0.6×2000-0.4*2000=400円(取引コスト無し)
取引コスト20円
0.6×2000-0.4*2000-20=380円(取引コストあり)
となり、期待値に占める取引コストの割合は20/400=5%と、
先ほどの10%よりも半減します。
これが、デイトレよりもスイングトレードや長期投資、ボラティリティが高い状況の
期待値が高い大きな理由の一つとなります。
また、オーバートレードやちょこちょこ取引回数を増やしても
儲からない理由となります。
金額的期待値が半減すれば、取引回数を倍にしても同じ利益しか望めません。
取引機会が倍になっても、累積ポジション保有時間が増えてしまえば、
単位時間当たりの金額期待値は下がってしまい、
儲かるスピードが遅くなってしまうということなのです。
それを補うために、さらにレバレッジを掛けたりリスクを取ったりしますが、
それにはトレードスキルの習熟が必要なため、
失敗の可能性も高まります。
以上、取引コストの無視できない影響について書いてみました。
金額期待値の見積もりは、
トレード毎の期待値を精査し、エントリーするかどうかのに役立つかと思います。
是非活用してみてください。